木造の宇宙船


話し出すと、とっても長い話なのですけど、
その最後のところだけをお話します。


小高い丘の上に木造の宇宙船らしきものを見つけました。
大きさは多摩六都科学館(そういうものがある)ぐらいでしょうか。
まわりは新興住宅地なので、まだまだ空き地がたくさん残っています。
ぼくはしばらく、東京は白金にある高級マンションの部屋につくられた、
大きな水槽の中で暮らしていたので(この話が長い)、
その開放感がたまらず、
思わずその宇宙船の入り口に近付いたのです。
入り口にはタキシード姿の男性が立っていました。


「どうぞ御自由にお入りください。」
ぼくは先客の男性と一緒に入りました。


一番不思議だったことは、その宇宙船のまわりにつくられた、
木の廊下でした。
それはどこまでもまっすぐに続いているのです。
どこまでもまっすぐに続きながら宇宙船の円形にそってぐるっと一周しているのです。


2時間くらい歩いたところで、近くにあった非常ドアから飛び出しました。
歩くことはとても楽しかったのですが、
もうそろそろいいかなあと思ったのです。
先客の男性はまだずんずん先に歩いていきました。


ドアから出ると、実家の近くの酒屋さんの前でした。
宇宙船はもう、ずっとずっと上の方、遥か空高くを飛んでいました。
その男性とはそれ以来会っていません。