赤鉛筆の書き味


赤鉛筆の書き味というのは独特です。
やわらかく削れていく時間がなんともいえません。
どんなにさきっぽっを尖らせても、すぐにまるくなってしまい、
非常に不器用なやつだなあという印象もあります。


そんな赤鉛筆が深夜にドアをノックしたとしたら、
どうでしょう?
外は雪です。
夢の中で、10頭もの犬にそりをひかせて、
巨大な屋根の上の国を旅していた最中です。
はっきり言って目覚めたくありませんでした。


遠慮がちの声で、
「ぼくです!赤鉛筆です!」
開けないわけにはいかないじゃないですか。


赤鉛筆は寒さに震え、しかも彼の頭はこれ以上ないくらいに丸まっていました。
ぼくは冷えきった彼を握りしめると、
まず、夜の黒の中に大きな赤いまるを描きました。


赤鉛筆のからだはどんどん暖かくなっていきました。


誰かが子供達の答案に、
大きなバツを描きました。
誰かが今年起こった悲しい出来事に、
大きなバツを描きました。
誰かが自分の手のひらに、
大きなバツを描きました。
たぶんね。


そこでぼくは、暖かいココアのかわりに、
ちょいとまるを描いてやったというわけです。


結局、夢の続きはもう見られませんでした。