怪談、風前と門前。


風前の灯君が道を歩いていたので声をかけた。
「おーい、風前の灯君!」
でも風前の灯君は僕を無視してすたすた歩いて行った。
「ねえねえ、僕だよ僕、門前の小僧だよ!」
風前の灯君は迷惑そうな顔でやっと振り向いてくれた。
「なんか用?」
「ねえ、いっしょにお経でも読まない?」
「はっ?」
「僕たちきっと素敵な友だちになれると思うんだ。そうだろ?」
「ご冗談でしょ。僕は君なんか大嫌いだよ」
「ひどいよ、風前の灯君!」
「それじゃ失礼!」
「ちょ、ちょっと待て、こら!風前の灯!ブフフフフーッ!」


僕は思わず風前の灯君に息を吹きかけた。
「うわあああ」
風前の灯君はあっという間に消えてしまった。


お寺に帰ると和尚さんの禿頭の上で、風前の灯君がちょろちょろと燃えていた。
僕は怖くなって、思わず和尚さんの頭をおもいっきりはたいた。
「おりゃーっ」
「いててて、こら何をする!」
風前の灯君は床の上に落ちて転がった。
ぼわっと床から火が上がった。
そして見る見るうちにお寺は炎に包まれた。
「うわあああ」
和尚さんのからだにも火が燃え移った。


僕は薄れ行く意識の中で炎を見つめていた。
火のついた柱がバキバキバキと音をたてて崩れ落ちてきた。
「も、もうだめだ‥‥」
すると、炎の中から、なにやら人の声が聞こえてきた。
一瞬僕の体が希望で満たされた。
「よかった、助けが来たんだ!」
しかしその思いはすぐに絶望へと変わった。


それは風前の灯君のお経を読む声だった。