寝なおしにご注意


わしはとある宗教的な儀式に招待された。
別にいかがわしいものではないはずだ。
何故なら招待状をくれたのは、名前も顔も知らないが、あの三平ストアの社長なのだ。


もはや夕暮れであった。
その部屋は静かで、あたたかく、薄暗く、愛に満ちていた。
が、よく見ると古いスナックを改造したものであることがわかった。
演歌歌手のポスターさえはってある。
わしはたくさん並んだ丸椅子のひとつにすわった。
窓の外には美しい中庭が見えた。
そこには信者たちであろう、これまた美しい女性たちが談笑しておった。



やがてその中の一人が窓を抜け、わしの近くへ来ると、ひざまずき、
わしの足のくつしたの片方を脱がせ、親指に香油を塗った。
一瞬胸が高鳴ったが、
それを見透かしたように、
「それではあの扉へお進みください」
と、事務的に微笑んだ。



てっきりその扉の向うには礼拝堂かなにかがあるのだろうと思っていた。
しかしそこにあったのは、広大な砂漠であった。
そしてそこには天までとどかんばかりの巨大な鉄塔が、300メートルおきくらいに地平線の彼方まで並んで建っていた。
しかもその塔は対になっていて、やはり100メートルくらい離れたところに平行に同じような塔が並んでいた。
塔の下には一人ずつあやふやな影法師がいて、向かいの鉄塔にいる影法師に向かって円盤を投げている。
円盤でキャッチボールをしているのだ。
空は夕焼けで真っ赤に燃えている。その赤さが尋常ではない。
どうやらわしにもそのキャッチボールに参加しろ、ということのようだ。


その時である、
体の中にもの凄い力がみなぎってきた。
何も考える暇はなかった。
わしはいきなり300メートルジャンプすると、
最初の鉄塔にカラテチョップを喰らわした。
オオオオオというような音をたてて鉄塔は倒れて行く。
すかさず次の鉄塔までジャンプすると、カラテチョップ再び!


影法師たちが無言で叫んでいる。
しかしかまわない。
わしのパワーはスーパーサイア人なみである。
次々と300メートル級のジャンプをすると、
バッサバッサと鉄塔をなぎ倒した。


しかし、
5分もすると疲れて来た。
だれかに止めて欲しくなって来た。


だがそこは見渡すかぎりの砂漠であり、わし以外には影法師の群れしかいない。



もはやこれまでかというときにインターホンが鳴った。
生協のお兄さんに救われたのだ。



それで?
申し訳ない、この話はこれで終わり。
何の含みも謎もない。
なんのことはない大阪世界陸上朝青龍関の怨念がのりうつっただけのことであろう。


しいて言うならば、香油を塗ってくれたお姉さんが気になる。
しかし、これ以上の謎解きは相撲協会をますます困惑させるだけだし、
それよりなにより、わしは妻子ある身なのである。



(おわり)