迷いの島

qujila2006-04-08



「鳥」という話がある。
鳥たちが突然凶暴になって人間界を襲うやつである。
確か鳥たちは潮の満ち干きとともにやって来たり去っていったりした。


潮の満干とともに移動するものは凶暴化した鳥だけではない。
マングローブの森も、
非常に静かにではあるが長い距離を移動する。
実際、西表島マングローブの森に迷い込んだ仙台の大学生が、
やっと森をぬけたと思ったところが、
都の西北であったという報告をしている。
彼はその体験を発展させ卒業論文のテーマにしたが、留年し、
結局悪い仲間に誘われてロックミュージシャンになったということだ。


マングローブはたくさんの足を持っているので、
潮の力を借りれば簡単に移動することができます。
とその大学生の論文は言っている。
それにしてもちょっと大げさすぎたとは思う。
実際ぼくも彼らが歩いているところを見たが、
せいぜい50メートルといったところであった。


あまりに行き当たりばったりの話や人生というものは、
結局どんな教訓ももち得ない。
むやみに凶暴だった鳥も、今は風に身をまかせている。
親泣かせだった大学生も、今は二児の父であるかもしれない。
そして、
ただ静かに、
マングローブの森に帰って行くべき夕暮れを、
待ち続けているのかもしれないし、
そうじゃないのかもしれない。