邦楽の授業


その学校は今はもう廃校になっている。
かつてはたくさんの子供たちの声が、
休み時間はもちろん、授業中だって、元気に響いていた。


わたしはその誰もいない学校の長くほこりっぽい廊下を、
ゆっくりと歩いていた。
校舎がコの字型に作られているため、
窓からは反対側の教室が見えていた。


わたしが向かっていたのは、
音楽室の向こうにある会議室。
その日はPTAの委員会が開かれる予定であった。


音楽室の前にさしかかると、
中から尺八の音色が聞こえて来た。
そっと覗いてみる。
生徒たちが神妙な顔で聞いている。
ひとりの生徒が琴を弾いていた。
尺八は録音されたもののようだ。
思わず引き込まれて、扉の窓からなおも覗いていると、
中からM先生が凄い勢いで飛び出して来た。
「なっ、何かご用ですか?!」
どうやら不審者に思われたらしい。
「いえ、尺八の音が聞こえたもので」
「そうですか」
先生はすぐに教室に戻っていった。


会議室はまだ鍵がかかっていた。
まだ誰も来ていない。
もう一度廊下の窓から向こう側の教室をみると、
やっぱり誰もいない教室に、
今度は、自分がぽつんと座っていた。


その日結局PTAの委員会は開かれなかった。
誰も来なかった。
自分が日にちを間違えたのだろうか?
そんなはずはない。


でも考えてみたら、あたりまえだ。
子供たちのいない廃校に、
PTAは必要ないのだ。