竹吹きの翁


究極の尺八の音とは、竹やぶの中をわたる風の音である。
そんな言葉を聞いたことがあります。


なるほど、と思います。
ならば、雨が降れば、尺八の音は雨に濡れているでしょう。
春の日には、霞がかかっているはずです。
外と内とを隔てない、まさに「ツツヌケ」な姿じゃありませんか。


古代、彼の国の若きパイドパイパーたちは、
また詩人でもありました。
風を歌い、神を歌い、恋を歌った。
この国では虚無僧が尺八を吹きながら諸国を行脚したといいます。


尺八を吹きはじめて4年は経ちます。
もちろん、そんな境地とはほど遠い自分です。
けれども、その遠さがなんとも切ないような気持ちいいような。
色々なことが自分からはずいぶん遠いんだなあと思うと、
なぜだか体がすうっと軽くなります。


今日はお琴の先生の所へ、合奏の練習に行って来ました。
帰りには雨が降り出していました。
久しぶりの雨の中、
東京の街はただ雨に濡れるがまま、
実に自然体。
ぼくはやっぱり、傘をさして、足早に地下鉄のホームへ降りたのです。